車輪が軋み、目的地への到着を告げる。
降りる前に窓から見えた光景に、思わず行きを飲んだ。
渋滞し列を成した車はどれも豪華で、人の手を借り続々と降りては城内に進む来賓客は眩しいほど着飾っている。
もちろん、培われた気品や存在感もあるのだろうけれど。
年若く、あまり落ち着きのない性格の自分は酷く場違いに思える。それに――。
「オリヴィア王女?」
出るのを手伝おうと待ってくれている男性に首を振り、自分の足で車を降りた。
(大丈夫)
何も恥じるようなことはない。
確かにまだ、結うことのできない髪は自分すら慣れないけれど。
(前を向かなくちゃ。……向いていいんだもの)
「これは、オリヴィア王女。ようこそ、お越しくださいました。あの方も、それはそれはこの日を待ち望んでおいででしたよ」
この前も案内してくれた、ニール付きと思われる男性。
オリヴィアの名前が呼ばれたからか、ニールのことが話題になったからか。
ともかく周囲の、特に若い女性が一斉にこちらを見た。
「お招きいただき、ありがとうございます」
気づいていないのを装いながら、挨拶を続ける。というのも、これはかなり以前から想定していたことだ。
急に親密になった、クルルとトスティータ。
ほぼ同時期に婚約者として名前が挙がったのが、その王女だ。
当然オリヴィアの名は知れ渡っているだろうし、あわよくば仲違いさせられないものかという思いはあるだろう。
二国が友好になるのを、喜ばない立場もまた存在するのだ。
婚約が白紙になれば、上手くいけば自分の娘を勧めることもできる。



