『結び目』

「お久しぶりー!!」

「久しぶりだねー!」

俺が大学を卒業し、(ちゃんと4年で)

社会人になって6年。

俺はもう28で、立派なサラリーマンだ。

そして、高校を卒業して、丁度10年。


愛がいなくなって、唯葉ちゃんもいなくなっちゃったあの日からも10年。

1ミリたりとも忘れたことはない。

あの時に話したことなら一言一句覚えてる。

それだけ俺にとってあの時間は何よりも大切だったから。

そして、高校卒業10年を記念して、開かれた同窓会に俺は参加中だ。

みんな10年経ったとはいえ、あんまり変わってなくて、チャラいやつはいつまでもチャラいし、
暗いやつはいつまでも暗い。

まあ変わることはできなくない長さだったのだが、
内面まで変えるにしては少し短いかなと思った。

1人だけ、高校の時にデブといじられていた男子が、
痩せて少しカッコよくなっていたことくらいが変わったことだろうか。


そして、そいつは内面まで変わったというか、よくないほうに変わったというか、

「ねーおねーさんー今日ひまぁー?」

そう、こんな調子で。

チャラい。

俺はそういう系の人が少し苦手だ。


やはり、10年ぶりの再会というものはすごく盛り上がる。

二次会までズルズルと行ってしまった。

まあ明日仕事がないので、いいこととするか。

その二次会の中盤。

見たことのない女の人と、河野?だったかそんな人が入ってきた。

「お久しぶりです。(ペコッ)」

誰だろう。

見たことのない女性は、長い髪をクルクルと巻いていて、清楚感があって、可愛らしい顔をしていた。

誰もが振り向くといっても過言ではない。

すると、早速さっきの痩せたチャラ男が動き出した。

なんとなく気になってそっちを見ていた。

「おー、えー?誰!!めっちゃ可愛いこきたぁー
ね!俺覚えてる?あ!夜空いてない?」

「あ、、」

彼女は助けを求めるように、友達の方を見た。

今の彼は酔っていてかなりめんどくさい。

「そういうのは無理なんで。彼女。
誰かもわかんないのに話しかけてくんなよ。」

金髪の河野が釘を刺すと、彼女は苦笑いで席についた。

ニコッとどこか空笑顔の彼女は愛を連想させた。

話しかけられても、ニコニコと微笑むだけで、あまり何も言わない。

河野がいなくなった隙を見て、また痩せチャラ男が話しかけた、というかナンパしていた。

「ねー、やっぱり、いなかったよねー君。
誰なの?名前は?苗字は?どこ高?今、何してるの?あ!この後空いてる?」

マシンガントークに苦笑いするかと思いきや、
彼女はチャラ男が話しているときずっと口元を見て、眉間に皺を寄せていた。

「あ、ちょっと、お手洗いに。」

と、彼女は抜けた。

どうやら話せないわけではないらしい。

ほかにも彼女にはおかしな部分がたくさんあった。

なんだか、行動に変な部分が多くて、

誰かに話しかけられても聞こえないかのようにスルーしていたり、

ずっと河野にぴたりとくっついて。

「もうそろそろ、明日仕事だから帰るね」

不思議な行動の彼女が帰るらしい。

なんとなく気になったので、着いていくというか。

どうしても、確かめたいことがあった。


「ねぇ!!待って!!」

店を出たとき、俺は思い切って愛に話しかけた。


でも、止まってくれない。

トコトコと俺たちの距離は離れていく。

「あ!久留須先輩ー!!」

「え?あ、西崎。」

奇遇にも西崎に会った。

すると前を歩く彼女を見て、言ったんだ。

「あのー!!!愛さん!!待ってよー」

どうして後ろ姿だけでわかったのか。

俺は入ってきた時から薄々気づいていた。
可愛い顔と、そして、俺があげたチャームがスマホにつけられていたから。

金がない俺からの最大のプレゼントだったが、
安くて、よくないものだった。

それなのに大事につけてくれていた。
それだけで嬉しいけど、。

「ねーえーあいさーん!!!」

でも彼女は愛は

振り向くそぶりをしなかった。

すっとスマホを見ると、

サッと頭を上げて、

こちらに走ってきた。