『結び目』

唯葉ちゃんが亡くなったと聞かされた。

我も忘れて、病院に走ったら、すでに号泣している西崎がいて。

トントンと背中を叩くことしかできなくて、俺だって、悲しいのに。

ポロポロと涙を流すことしかできなかった。

西崎が心配しないように、微笑んで。

ただひたすら、背中を叩いていた。

そして、西崎は、医者たちに強引に引き離されて、

トボトボと帰って行った。


顔には1ミリの笑顔もなかった。


唯葉ちゃんが連れて行かれた時、流石に俺も嗚咽を漏らしそうだった。

でも、泣くわけにはいかない。

西崎のほうが辛いはずだから。

俺より辛い人の前で、号泣なんて、できなかった。

でも、、


やっぱり無理で。

西崎が見えなくなった途端に、

涙が溢れ出してきた。


外でこんなに号泣したのはいつぶりだろう。

しかも、病院で。


「唯葉ちゃん、、っ。」

俺はただひたすら泣いてた。

誰かに肩を掴まれて、

ひきあげられても、その人を見る気になれなかった俺は

壁を向き、泣いていた。

「おい、おまえ。」

愛と一緒に帰った日以来のぶっきらぼうな声が聞こえて、それでも、俺は父を見る気にはなれなくて、

また、地面に座り込んだ。

「おい、なにがあったんだ。」


こんなに泣いては返事もできない。

ただ泣き続ける俺に違和感を覚えたのか、。

「なあ、話してくれなきゃわからねぇよ。
医者は神様じゃねーから。」

「そんなことっ。わかってるよっ、」

ようやく止まった涙を袖で拭きながら。

そっと父さんの手が近づいてきて、俺の涙を拭った。

「何があったんだ。ゆっくりでいいから、話してみろ。」

仕事中だからか、父はいつもより当たりが弱い。

「何も、ない。」

でもそんなことには惑わされない。

ろくに帰ってこない、名前ももう読んでもらえない、

そんな父に話すことなんてないと。

「言えよ。後悔するぞ、俺は父親だが医者で、医者だが父親だ。」

「誰が父親だよ。
金に苦労したことはない。父さんのおかげでな。
でも、、、俺は金なんていらなかった、」

「すまない。」

「友達が死んだんだ。」

「そうか。」

「俺の、好きな人の、妹で、俺の大事な友達で。
でも、さっきは泣けなかったんだ。俺より辛い人の前でなんか泣けるわけなくて。でも!そいつが見えなくなったら、気が抜けて、」

「そう、か。
人生の中で人が死ぬなんてよくある。
俺たちは人間なんだからな。
まあ、当分は引きずればいい。
それが、人生の、、大事な部分になって。
いい人になるよ。晴翔。」

「っ、、。
父さんっ、。ありがとう。」

「ああ。大きくなったな晴翔。
ごめんな晴翔。ほんとにごめん。」

「いい。いいよ。よくないけど、いいよ笑笑」

「ハハっ笑笑」

人生で初めて、父さんときちんと話した瞬間で。

父さんが好きになれた瞬間だった。