『結び目』

「唯葉!?唯葉ー!!よかった!!」

私は何もなかったかのように、唯葉の病室に入った。

唯葉と、どこか沈んだ表情の宮。

「ほんと、よかったよね!」

でも、そんなのが嘘のように笑う宮に安心してしまう単純な私がいた。

「あ、久留須さん。お願いしますね。」

珍しく、唯葉がよく話す。
なんの話をしていたんだろうか。

そんなことを聞くのは野暮かな。

そして、いつのまにか、病室には私と唯葉。
2人きりになっていた。

「あ!!!唯葉!忘れてた!」

気まずい状況を破ったのは誰でもなく、忘れ物をしたらしい晴翔だった。

「どうしたの。」
無表情の唯葉にも動じない晴翔。

「あのさ、お母さん達。全然見ないけど元気?
見舞いとか来てる?聞こうと思ってたんだけどさ、
なかなかで。」
「いや。」

まずいと思った。
この流れは。

「あのさ!喉乾いたから水!買ってくるね!」
「愛さん、知ってるんじゃねーの?」

逃げれないんだ。
そうさとった。

「いないよ。ずっと前から。」

晴翔が息を呑んだ音がした。

それだけ言って、部屋を出た。
いや、正式には出ようとした。

唯葉が、私の手を掴んで、久しぶりに感情がのった顔、うん、睨んでいた。

「それ、どういうこと。ちゃんと説明して。
逃げないで。」

だから、私は、笑顔で。

「そのまんまだよ。いるけどいないの。」

「どう言う意味。」

「離婚だよただの。」

「なんで離婚したら家から出ていっちゃうの?」

「、離婚さ、不倫だったんだよ。」

「え、」

「両方だよ。だから、離婚したら、出ていっちゃったの。別に困ってないよ。あ、親権はお母さんにある。お母さんの方がお金に余裕があったから。」

「なんで。言ってくれなかったの。」

久しぶりに見るのが、怒った顔と泣きそうな顔なんて。ついてないなぁ私。

「事情があったの。」

晴翔がポツッと
「ごめん。無神経に聞いて。」
と謝った。

「ねぇ、お姉ちゃん。」

今日、やたらと口数多いよね。

なんで、なんか、聞きたくないよ。


「もう、来ないで。」

「なんで、、そんなこと言うの。」

きっと今の私は情けない、不甲斐ない顔をしていると思う。

「お姉ちゃんは、私がいつ退院できるか考えたことある?ないよね。もう、来なくていいから。」

「わかったよ。」

晴翔と宮が目を合わせた。

これっきり、私は病院に行かなくなった。