結局、七瀬からそれ以上のメッセージが来ることはなく、落ち着かない思いをさせられたのは宗吾の方だった。
『話したいことがある』と思わせぶりな書き方をしているのが気に食わない。
今日は十時に出社したので、十九時に上がれる。待たせてやろうという気持ちもあったが、十九時きっかりに会社を後にすると、駅まで急ぎ足で向かった。
もうすぐクリスマスなので、各所でライトアップが施され、『Vintage Voltage』の店先もイルミネーションで飾られている。
寒い夜だというのに、街全体が浮足立っているようだ。
先週からずっと不快一辺倒だというのに、世間の浮かれ具合にこちらは腹が立った。
店に入って店内を見回すと、七瀬が壁際のソファ席に座っており、手元にはグラスマグのカクテルがあった。
宗吾は不機嫌な表情を作ると、七瀬をにらみながら席まで近づいていく。
すると、七瀬もこちらに気づき、立ち上がって宗吾がやってくるのを待った。
「来てくれて、ありがとう」
口元を微笑させて七瀬が言った。宗吾が来てやったことに安堵しているのだろう。
「仕事中に抜けてきてるんだ。何の話があるのか知らないが、手短に」
向かいのソファの上に鞄と上着を放り投げ、スマホをテーブルに置いてから、腰を下ろして足を組んだ。
いかに自分が怒っているかを態度で示し、七瀬に反省させなければならない。
注文したビールが届くまで沈黙が続いたが、ウェイターが立ち去ると、それを合図に七瀬が切り出した。
「……まず、私が最近見聞きしたことについて、宗吾さんの口から本当のことを教えてほしいの」
「なんだよ、本当のことって」
「今月の頭、金曜から前乗りで九州に出張って言ってたよね。私ね、土曜日の昼間、宗吾さんが女の人と表参道を歩いているのを見たの。出張は……嘘だったの?」
「…………」
いきなり予想もしていなかったことを指摘され、言葉を失った。
元々は沙理の兄の誕生日プレゼントを買いに行くだけの約束だったのだが、その一週間ほど前、彼女と客先に出向いた後で、会社には直帰と伝えて二人でホテルに入った。
そこで盛り上がってしまい、どうせなら翌週末も――となり、出張と偽って金曜夜から日曜日まで、沙梨と過ごしたのだ。
七瀬が表参道に行く確率はほぼゼロに等しく、スタジオのある青山、新宿、渋谷を避ければ遭遇することは絶対にないと思っていたのだ。
「出張は嘘じゃない。お土産も渡しただろ」
有楽町のアンテナショップで買ったものだったが……。
「そう。新宿駅で宗吾さんを見かけたとき、一緒にいた会社の人だと思ったけれど、じゃあ私の見間違いかな」
七瀬は目を伏せて笑ったが、まるで納得していない顔だ。宗吾が嘘をついていると決めつけている表情をしている。
「一昨日……土曜の夜はね、十時頃に家に帰ったら、女の人の靴が玄関にあったの。二人で寝室にいたよね。ごめんなさい、聞くつもりじゃなかったけど、聞こえてしまって……」
七瀬は平静を保ち、微笑を浮かべたまま言う。
「私たちの家だよね……? どうしてあんなことができるの……?」
『話したいことがある』と思わせぶりな書き方をしているのが気に食わない。
今日は十時に出社したので、十九時に上がれる。待たせてやろうという気持ちもあったが、十九時きっかりに会社を後にすると、駅まで急ぎ足で向かった。
もうすぐクリスマスなので、各所でライトアップが施され、『Vintage Voltage』の店先もイルミネーションで飾られている。
寒い夜だというのに、街全体が浮足立っているようだ。
先週からずっと不快一辺倒だというのに、世間の浮かれ具合にこちらは腹が立った。
店に入って店内を見回すと、七瀬が壁際のソファ席に座っており、手元にはグラスマグのカクテルがあった。
宗吾は不機嫌な表情を作ると、七瀬をにらみながら席まで近づいていく。
すると、七瀬もこちらに気づき、立ち上がって宗吾がやってくるのを待った。
「来てくれて、ありがとう」
口元を微笑させて七瀬が言った。宗吾が来てやったことに安堵しているのだろう。
「仕事中に抜けてきてるんだ。何の話があるのか知らないが、手短に」
向かいのソファの上に鞄と上着を放り投げ、スマホをテーブルに置いてから、腰を下ろして足を組んだ。
いかに自分が怒っているかを態度で示し、七瀬に反省させなければならない。
注文したビールが届くまで沈黙が続いたが、ウェイターが立ち去ると、それを合図に七瀬が切り出した。
「……まず、私が最近見聞きしたことについて、宗吾さんの口から本当のことを教えてほしいの」
「なんだよ、本当のことって」
「今月の頭、金曜から前乗りで九州に出張って言ってたよね。私ね、土曜日の昼間、宗吾さんが女の人と表参道を歩いているのを見たの。出張は……嘘だったの?」
「…………」
いきなり予想もしていなかったことを指摘され、言葉を失った。
元々は沙理の兄の誕生日プレゼントを買いに行くだけの約束だったのだが、その一週間ほど前、彼女と客先に出向いた後で、会社には直帰と伝えて二人でホテルに入った。
そこで盛り上がってしまい、どうせなら翌週末も――となり、出張と偽って金曜夜から日曜日まで、沙梨と過ごしたのだ。
七瀬が表参道に行く確率はほぼゼロに等しく、スタジオのある青山、新宿、渋谷を避ければ遭遇することは絶対にないと思っていたのだ。
「出張は嘘じゃない。お土産も渡しただろ」
有楽町のアンテナショップで買ったものだったが……。
「そう。新宿駅で宗吾さんを見かけたとき、一緒にいた会社の人だと思ったけれど、じゃあ私の見間違いかな」
七瀬は目を伏せて笑ったが、まるで納得していない顔だ。宗吾が嘘をついていると決めつけている表情をしている。
「一昨日……土曜の夜はね、十時頃に家に帰ったら、女の人の靴が玄関にあったの。二人で寝室にいたよね。ごめんなさい、聞くつもりじゃなかったけど、聞こえてしまって……」
七瀬は平静を保ち、微笑を浮かべたまま言う。
「私たちの家だよね……? どうしてあんなことができるの……?」
