そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛

「お疲れ様です」

 乾杯の合図だ。お互いに飲みかけのグラスだが、七瀬もグラスを持って陣のそれに重ね合わせた。
 きっと、ぽつんと取り残された七瀬が気まずい思いをしないよう、気を使って声をかけてくれたのだろう。

「センセーはレッスン帰りですか?」
「はい。陣さんはお仕事帰りですか?」
「ええ。仕事の後にヨガをやったら、さぞかしすっきりするでしょうね」
「社会人の方は、夕方とか夜は難しいですもんね。でも、毎週、ほとんど欠かさず早朝からクラスを受けに来てくださって、本当にすごいと思います。いつも大事な時間を共有してくださってありがとうございます」

 そう言って合掌したら、陣が笑った。

「はは、外でもそんな感じなんですね。合掌は、ヨガ講師あるある?」
「そうかもしれないです。もう、癖で」

 楽しそうな陣の笑顔に、七瀬もついつられてしまう。
 そのとき、ウェイターがトリュフフライドポテトとグリーンサラダを運んできた。

「陣さんもよかったら、ご一緒に」
「では、お言葉に甘えて。七瀬センセーは他に何か頼みました? この店、ビーフウェリントンが絶品なので、お勧めします」
「どんなお料理ですか?」

 名称からさっぱり料理のイメージが湧かないのだが、ウェイターがメニューを開いて説明してくれた。

「牛ヒレ肉のパイ包み焼きです。サクサクのパイ生地で包んだ上質な牛フィレ肉に、マッシュルームデュクセルとプロシュートを挟んで焼き上げています」

 横文字が多すぎてまったくわからないが、メニューの画像を見るとひどく食欲を刺激される。