そのモラハラ彼氏、いらないでしょ? ~エリート御曹司の略奪愛

 少し足を延ばして青山一丁目までやって来ると、先日の『Vintage Voltage』に陣の先導で入った。
 慣れた足取りからすると、きっと陣の行きつけのお店なのだろう。カフェバーが行きつけだなんて、さすが青山男子はおしゃれだ。

「いらっしゃいませ」

 出迎えたウェイターに片手を上げると、陣は案内を待たずにまっすぐカウンターの奥へと向かった。

「七瀬センセー、上着掛けるから」
「あっ、すみません」

 陣が壁のコートハンガーに七瀬の上着も掛けてくれる。そうしてカウンター席に着くと、メニューを開いて目の前に置いてくれた。

「陣さんは何を飲みます?」
「僕はエールにしようかな」

 メニューにはビールだけで九種類もある。
 先日は「ビールで」の一言で出てきたが、その場合は最もポピュラーなラガービールが出てくるようだ。
 詳しい説明書きもあるので、目移りしながらそれを眺めていたら、バーテンダーがあたたかいおしぼりを出してくれたので、おすすめを聞いてみた。

「女性のお客さまには柑橘系のホワイトエールや、ベリーフレーバーの甘酸っぱいフルーツビールが人気ですよ。でも、僕のお勧めはシナモンメープルエールですね。メープルのほんのりした甘みとシナモンが効いた、うちの冬季限定ビールです」
「冬季限定……じゃあ、それにします」
「かしこまりました」

 カウンターに設置されたビールサーバーからバーテンダーがグラスにビールを注ぎ、二人の前に置いてくれたのだが……。

「それで陣、彼氏持ちの女の子をさっそく口説き落とした?」

 と、いきなりバーテンダーがにやにやと陣に笑いかけた。

「そんなんじゃないから! 先生に失礼だろ。すみません七瀬センセー、こいつ、僕の兄なんですが、よく客商売が務まるなってくらい、デリカシーのない男で……」

 陣が大あわてでフォローを入れたが、驚いたのはバーテンダーの発言ではない。

「――陣さんの、お兄さん!?」
「はい、こんにちは。七瀬センセーですよね。先日もご来店ありがとうございました。僕はこの店の店長で、陣の兄もやってます。(じゅん)と呼んでください。この店の常連さんは皆さんそう呼んでくださってるので」
「ええ……」

 カウンター越しににこにこしている男性の顔をまじまじと見つめた。
 潤は少しだけ長めの後ろ髪を一つ縛りにしてオールバック、いかにも自由業に就いてますという風貌だ。
 顔立ちは、言われてみれば似てるような、似ていないような……。
 でも高身長で体格がいいところはよく似ていた。

「あ……、先日はお騒がせして申し訳ありませんでした」

 宗吾とちょっとした騒動を起こしたとはいえ、一見の客なら店のスタッフもすぐに忘れてくれたかもしれない。
 でも、店長の弟が関わった件なら、みんな覚えていることだろう。

「いえいえ、日常茶飯事なので気になさらないでください」

 たぶん、フォローしているつもりなのだと思われる。