何言ってんだ?
そんな堅い声色で言われても、美弥には何のことだかさっぱり分からない。
「同じ人間なんていないってこと?」
「そういうことを言ってるんじゃない」
美弥の解釈を、与崎は間髪を入れず否定する。
「俺とお前は、そもそも殺しの動機からして違う。だから一緒にして考えちゃいけなかったってことだ」
嫌な予感がした。
「詳しくは言えないけど、俺の殺しは自分のためだ。でも、美弥は違うんだろ?」
「えーっと……親父のためだよ」
美弥は一瞬迷ったが、結局本当のことは言わなかった。
与崎は感心したように何度も頷く。
「人のために動ける人って、いたんだな」
その声はあまりにも嬉しそうで、美弥の胸にちくりと痛みが走る。
「俺、そういう人見たことがなかったから。自分も殺されかけてんのに、まだ身内のことを忘れないって……すごいことだよ。美弥、お前本当は割と良いやつなんだな」
「ほ、本当は、って。普段の私が不良みたいじゃん」
美弥は引きつる表情筋を無理矢理笑顔の形に持っていった。
「もう暗いし、帰ろ。夕飯の支度もしなきゃいけないし……」
こんな湿っぽい雰囲気には耐えられない。
美弥は与崎を押し退け、急いで階段を下りた。

