あの女だな。
あの女に突き飛ばされたのだな、と美弥はぼんやり思った。
その後のことはよく覚えていないのに、一瞬見えた女性のピアスの輝きだけが、何故か美弥の渇いた脳裏に焼け付いていた。
叔父夫婦も何だかんだ理由をつけて同居を拒否していたが、美弥も無理強いはしなかった。
得体の知れない教団に追われている姪など、引き取るどころか顔を合わせることすら嫌だろう。
「そうだよ。いつ殺られるかなんて分かんないじゃん」
幸い駅での一件以降は向こうも鳴りを潜めているが、いつまた狙われるかは分からない。
美弥はほつれた黒いカーテンに目を移した。
長いこと使い続けているせいで、所々裂けたり染みがついていたりしている。
何気なくカーテンを手に取った時、美弥の脳内に『悪魔』という文字がちらついた。
黒い布。
鏡。
……三つの願い。
「三つの願い……」
無意識のうちに声が洩れていた。
美弥はゆっくりと化粧台の鏡に目を向けた。
鏡の中の自分が、驚くほど冷たい視線を返してくる。
「それって、仇を討ちたいって願いも、叶えてくれるのかな」

