落ちこぼれ悪魔の扱い方

「真名川……静伽? いや、『静樹』だな」

美弥は目を細めて何とか名前を読み取った。


メモ帳には五十歳くらいの男性の顔写真も貼り付けられている。

真名川の写真だ。

温和そうに口許を綻ばせているが、痩せ細った顔と突き出た頬骨のせいで神経質そうにも見える。

豊かな銀髪は、前髪は目にかかるくらい長いのに後ろ髪は妙に短い。

美弥にはかなり異質な髪型に見えた。

「教祖ってことは……この人が親父を……」

美弥はそう呟いたが、目に浮かんでいたのは父ではなく電車だった。

もしまたあのときみたいに突き飛ばされたら、次も無事でいられる保証はない。


父が死んでから、身内である自分も何故か狙われているのだ。

車が明らかに歩道にはみ出したまま突っ込んできたこともある。

雨の日の歩道橋でわざとぶつかられたこともある。


そして駅のホーム。


背中を押されたときは、一瞬何が起きたか分からなかった。

転んだまま照れ笑いを浮かべる美弥のすぐ目の前を、轟音を響かせて特急列車が通り過ぎていく。


美弥は唖然としていた。

列車が過ぎ去った後も美弥は動けなかったが、美弥の双眸は向かいの改札口を急いで抜ける女性の姿を捉えていた。