落ちこぼれ悪魔の扱い方

死別のショックからか、美弥は生前の父親の様子をほとんど覚えていない。

三年前まで一緒に暮らしていたはずなのに、だ。

何なら顔も覚えているかどうか怪しい時があるくらいで、仏壇の写真を見ても未だにピンと来ない。

生活の中で『父親』という存在だけがすっぽり抜け落ちてしまっている。

それが現状だ。


現状維持でも別に問題はないのだが、一応家族だった父親を忘れたままというのは少し寂しいような気もする。

「……読んでみよっと」

少しドキドキしながら表紙をめくると、『悪魔を呼び出す儀式』と汚い字で書いてあった。

「初っ端から変なの来たな。なになに……」

そこに書かれていた内容はこうだった。

『全身が映る大きさの鏡に黒い布をかぶせて、午後六時ちょうどにそれを真ん中から刃物で一気に切り裂く。

すると、悪魔を呼び出すことができる』

『呼び出した悪魔は願いを三つ叶えてくれる』

読むが早いが、美弥は噴き出した。

「何これ。今時流行らないよ、こんなの」

しかし父は熱心に調べていたようで、悪魔の外見や弱点、実際の体験談などが真面目に綴られていた。

手描きの下手なイラストによると、どうやら悪魔は一様に黒いスーツを着て、黒いベールで顔を覆っているらしい。

「何それ。黒ずくめの組織だってこんなに黒くないわ」

一人でツッコミを入れながら再びページをめくると、今度は謎の宗教団体『真珠(しんじゅ)(かん)』についての情報が所々解読不可能な文字で書かれている。


真珠の環。


その文字を見た瞬間、脳裏に蘇った光景があった。