美弥はリビングに入る前に、ドアに耳を付けて中の音を聞き取ろうとした。
微かにテレビの音が聞こえる。
どうやら中にいるらしい。
美弥は一度深呼吸すると、恐る恐るドアノブに手をかけた。
「お、おはようございまーす……」
「ん? ああ、起きたのか」
案の定起きていた。
与崎は昨日と同じ椅子に座り、音量を絞ってニュース番組を見ている。
顔と手は、相変わらずベールと手袋で隠されたままだった。
ただし服装は昨日の黒いスーツではなく、何故か青いジャージを着ている。
サイズはかなり大きめで、手足の丈が余っていた。
なんでよりによってジャージ……。
美弥が何か言う前に、与崎は事も無げに言った。
「父親の服借りたけど、いいんだよな?」
「いや、別にそれは構わないけど。……あのさ、なんでジャージなの?」
「新品がこれしかなかったんだから仕方ないだろ。シャツ洗っちゃったし。洗濯機は、使って良かったんだよな?」
「あ、うん。壊さなきゃいいよ」

