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すっかり気温の上がった蒸し暑い廊下を、美弥は独り疲れた顔で歩く。
窓から注ぐ夕陽が、長い廊下をどこかレトロな橙色に染め上げていた。
咲子はもう帰ってしまった。
悪いことをしたな、という自覚はある。
たまに空気が読めないこともあるが、あの子は素直な優しい子だ。
それなのに美弥は、大切なことは何一つ咲子に打ち明けていない。
真名川に復讐したいということも、こんな風になってしまった理由も。
会って数日の与崎には自分の情報をぺらぺら喋っていたというのに。
男に甘いだけなのかな、私。
独り言を呟こうとしたが、からからの喉は壊れた楽器のように沈黙していた。
咲子に申し訳ない。連絡だけでも入れよう。
スマホを取り出そうとスカートのポケットをまさぐったが、お目当てのものは一向に出てこない。
ポケットから手を抜くと、裏地がべろんとだらしなく出てきた。
教室に忘れてきたかも。
美弥は呼吸の延長のようなため息を吐き出し、きびすを返して教室へ向かった。

