高坂は「仕方ない人ね」と呆れたようにため息を吐いていたが、その口元は笑顔が隠しきれていなかった。
鮮やかな薔薇に目を奪われている高坂を、灰田は優しい表情で見守っていた。
その瞳が、水を張られたように一瞬揺れる。
「……僕、先輩に謝らなきゃいけないことありますよね」
灰田がぽつりとこぼす。
高坂は花束から顔を上げ、灰田をじっと見つめた。
高坂の視線を身体中に浴びながら、灰田は居心地が悪そうにもぞもぞしている。
「えーと、引き留める、ってゆーか、脅かすようなこと言って、めっちゃ反省してます。もっと潔く、先輩の巣立ちを応援すべきでしたよね。本当にすいませんした」
拙い謝罪だったが、灰田は素直に頭を下げた。
高坂は無表情にそんな灰田を見下ろしている。
「……律君。顔を上げて」
恐る恐る顔を上げた灰田の額を、高坂は思いっきり指で弾く。
いわゆるデコピンを食らわされ、灰田は「うっ」と呻いた。
「痛っ。何すんですかいきなり」
「仕返しよ」

