それを聞いた瞬間、与崎はハッと我に返った。
怯える必要なんかない。
俺は悪魔になった。
あいつらはもういない。
……それにまだ、俺にはやるべきことが残っている。
与崎はすくむ体を何とか動かし、無我夢中で男めがけて体当たりをかます。
腹部に命中し、バランスを崩した男は床に倒れる。
「てめえ、ふざけやがって……」
男の声に呼応するかのように、鏡からたった今呼び出されたばかりの悪魔が顔を覗かせた。
しかし部屋の雰囲気にただならぬものを感じたのか、すぐに顔を引っ込めて鏡の中に戻ってしまった。
与崎の足に衝撃が走った。
床に倒れていた男が、その状態で足払いを食らわせてきたのだ。
与崎が転倒すると、男は素早く身を起こす。
手にはまだナイフを握ったままだった。
鋭く光るナイフが、与崎の顔へ迫ってくる。
その刹那、黒い影が割り込んできた。
灰田だ。
男の腕を掴んで力一杯引き留めながら、灰田は声を張り上げる。
「ひとみ先輩っ! 逃げて、早く!」
「させるか!」
男は右腕を灰田に掴まれたまま、左手で金槌を拾い上げた。

