このままじゃ、間に合わない。
早くしろ、とベール越しに灰田を睨む。
灰田は焦っているのか、何度もバネ棒外しを取り落としそうになる。
その手は汗だくで、手元が狂わないか見ているこっちがハラハラした。
男が布を切り裂くのと、与崎の手枷が外れるのは同時だった。
与崎の手枷が床に落ちる。
ガチャリ、と大きな音を立てて……。
男は振り返る。
唖然とした表情は、一秒と経たないうちに般若のような顔へと変わっていった。
男の化けの皮は剥がれ落ち、粗野な本性があらわになる。
「何やってんだ!!」
男は猿のように歯を剥き出しにして怒鳴った。
その怒声が部屋の空気を揺るがし、悪魔たちは一斉に耳を塞ぐ。
ビリビリするような空気の振動を、与崎たちは確かに感じた。
そしてそれは不幸なことに、与崎のトラウマを想起させてしまった。
俺、前もこんなふうに怒鳴られて……。
振り下ろされる父の拳。
幻覚だと分かっていても、与崎は咄嗟に頭を庇う。
体が勝手に、身を屈めてしまう。
男は鬼に憑かれたような殺気を放ち、与崎に迫ってくる。
ダメだ、体、動かねえ……。
突然、高坂が男と同じくらいの声量で叫んだ。
「負けんな、ひとみ!!」

