どくん、どくんと跳ねる心臓を宥めながら、与崎はできるだけ平静を取り繕った。
男の視線は逸れない。
男の考えが読めず、与崎の額を汗が伝う。
結局、男は何も言わなかった。
ピンを盗ることは失敗したが、とりあえず難は逃れたらしい。
ピンを盗ることは失敗したが。
安堵と虚しさでめちゃくちゃにされながらも、与崎は何とか無事に個室から解放された。
「ということで、すまない。ピンは盗ってこられなかった」
大部屋に戻ると、与崎は開口一番そう言って頭を下げた。
「そんな、謝らないでちょうだい。ひとみ君が無事で良かったわ」
「そーっすよ。それに、ネクタイピンじゃ難しいと思います。あれだと短すぎるんで」
二人は慰めてくれたが、与崎は不甲斐ない思いで押し潰されそうになる。
もう少し早く手を伸ばせていたら、なんて不毛なことをどうしても考えてしまう。
「気持ち切り替えて、次のチャンスを待ちましょ。全く、ひとみ君は真面目すぎるんだから」
ため息混じりの声で、高坂は言う。
与崎は頷き、今日のことは忘れろと何度も自分に言い聞かせた。
……もちろん与崎にそんなことができるはずもなく、夜な夜な思い出しては頭を掻きむしっていたが。

