ひとみ、何だこの点数は。ふざけてんのか。
ひとみ、部屋入ってくんじゃねえよ。死にてえのか。
ひとみ、風呂沸かしとけ。ひとみ、家出てけ。
ひとみ、ひとみ、ひとみ……。
「ひとみ」
無意識のうちに声に出てしまった。
与崎はハッとして口元を押さえたが、もう遅い。
「ひとみ?」
高坂がおうむ返しに尋ねてくる。
与崎はしどろもどろになって、「あ、いや、違……」と弁解を試みようとした。
「これは、別の人の……」
「素敵な名前じゃない!」
高坂は笑顔でそう言うと、「あっ、いけない」と思い出したように小声に戻った。
「綺麗なのに気取らない感じがして、すごく良い名前だと思うわ」
「確かに、先輩に似合ってますよ。ひとみ先輩って呼んでもいいすか?」
口々にそう言われ、与崎は「あ、ああ……」と言ったまま弁解のチャンスを失った。
「苗字は?」
灰田に聞かれる。
与崎は重い口を開き、忘れようとすらしていた自分の本名を明かした。
「鈴沢。鈴木の鈴に、金沢の沢。ひとみは、ひらがな」
「あら。聞いたことない苗字ね。……ちなみに歳はいくつなの? あたしは享年十八よ」
勇気を出して言ったのに、返答はそれだけ。
あっさりと流されたことが、与崎には何故か救いのように感じられた。

