初めて銀を触ったのも、このときだった。
一番扉に近い場所に拘束されていた与崎は、日がな扉を眺めていた。
悪魔の脱走を防ぐためだろう、両開きの扉は全て銀でできていた。
その鏡のような輝きに、与崎の心はちくちくと刺激された。
……もしかして、逃げられるんじゃないか?
金属光沢だって、鏡みたいなものだ。
枷さえどうにかできれば、鏡を伝って逃げられるかもしれない。
ほんの期待を込めて、与崎は扉の表面に指先で触れる。
その瞬間、焼けつくような痛みが指先に走った。
「いっ……」
反射的に手を引っ込めた。
それでもまだ、指先はジンジンと疼いている。
何やってんだこいつ、とでも言いたげな他の悪魔からの視線を感じた。
与崎は気まずさに身をすくめる。
すると突然、隣に座っていた女性の悪魔に「無駄よ」と耳打ちされた。
「銀は鏡と違って、ガラスで覆われていないんだから。銀なんて、あたしたち悪魔は通れないに決まってるじゃない」
ここに来てから初めての、悪魔同士での会話だった。
与崎はドキドキする胸を押さえつつ、「そうか、それは残念だな」と小声で返す。

