「心配かけたな」
呟いた声は鼻声で、千鶴は「鼻かんだ方が良さそうですね」と微笑みながらティッシュペーパーを差し出してくる。
「……その、悪かった。取り乱して」
「いいんです。私の方こそ、すみませんでした」
千鶴は穏やかにそう言うと、「それから、私……」と言いにくそうに口ごもった。
「夫のこと、もう少し考え直してみます。悪魔さんの言う通り、暴力に依存するなんておかしいですよね」
「まあ、少なくとも俺はそう思う」
与崎は一瞬迷ったが、結局そう肯定した。
「でしたら、夫と離れられるように自分で色々試してみます。
殺害なんて物騒な手段を取らなくても、私がこの依存症を何とかすればいいだけの話ですからね」
「分かった。俺は何を手伝えばいい?」
「いえ、悪魔さんのお助けは遠慮しておきます。私の問題ですから」
千鶴はしたたかな笑みを浮かべる。
「せっかくご足労いただいたのに、すみませんでした」
「いや、全然いいんだ。頑張れよ。……時々、様子見に来てもいいか」
「もちろんです!」
千鶴は頷き、少しお茶目な仕草で親指を立てた。
与崎は五日後、早速様子を見に千鶴の部屋の鏡を訪れた。
……もっと早く来るべきだった、と与崎は瞬時に後悔した。

