埃っぽい牢獄。
鉄格子の外、階段に続く扉がギィッと軋んだ音を立てると、悪魔__鈴沢ひとみの一日は始まる。
……いや、この名前は好きじゃない。
今の自分は『与崎』だ。
彼女との契約は切れたが、この名前は気に入っている。
例え農家のハゲおやじの襲名だとしても。
扉が悲鳴のように軋みながら閉まる。
誰か入ってきたようだ。
与崎は緩慢な動作で体を起こした。
石の床に直接寝そべっていたせいで、体のあちこちが痛む。
着ている黒いスーツも皺だらけになっていた。
硬い靴音を響かせて入ってきた茶髪の男は、何の躊躇もなく鉄格子の向こうの与崎に声をかけてきた。
「おはよーございます、先輩。つってももう昼前すけど」
「そうか」
与崎は素っ気なく答える。
この牢獄には時計がない。
だから、放っておくとどんどん時間の感覚が狂っていく。
まあ、この真っ暗な魔界では時間の感覚もへったくれもないが。
せっかく人間界で体内時計をリセットできたというのに。
与崎がこっそりため息を吐くと、入ってきた後輩、もとい灰田は、「あ、そーだ」と目元を緩ませる。

