「与崎!」
我に返った美弥が叫ぶと同時に、何か布のようなものが美弥の頭にかぶせられた。
そのまま美弥は後ろに突き飛ばされる。
美弥が床に倒れ込んだ次の瞬間、激しい破裂音とガラスが擦れる音がした。
数十秒経ってから、美弥はそっと頭にかけられたものを取り上げる。
スーツの上着。与崎のものだ。
布地は鏡の破片が刺さり、ところどころ裂けている。
与崎の咄嗟の行動がなければ、今頃美弥の顔は傷だらけだったかもしれない。
辺りに目を向けると、割れた鏡の破片が散らばっていた。
全身鏡の下半分は枠があちこち歪んでいる。
与崎が、いなくなった。
二週間も一緒に暮らしていたのに。
喧嘩もしたし外出もしたし、何より一番の話し相手だったのに。
それなのにこんなに呆気なく、この家から去ってしまった。
「どうして、こんなことになったんだろう……」
唖然とする美弥の脳内に、この数週間の記憶が何度も甦ってくる。
初めて与崎に出会ったときのこと、与崎の素顔を見た日のこと、与崎が笑ってくれた瞬間のこと、その全てが映画のように。
美弥は冷たい床に突っ伏し、声にならない呻き声をあげた。

