帰りの電車の中で、美弥はひたすら与崎のことを考えていた。


あのとき。

父親の話を持ち出したときの与崎の態度は、普段のものとは違う気がした。

バカやっているときだけではなく、ちょっとした真面目な話のときのものとも似つかない。


そう、『真剣』の一言で片付けられるようなものじゃなかった。

もっと寂しげで、儚げな……。


美弥は隣に座っている与崎に目を向けた。

与崎は目を閉じている。

寝ているのかどうかは分からないが、声をかける気分にもなれない。

美弥はただ漠然と、与崎の針のようなまつ毛を眺めていた。


電車を降りた後も、与崎は何だかおかしかった。

やたらと周囲をキョロキョロして、どこか浮わついている。

そして美弥の不審な視線に気付くたびに、「いや、何でもないんだ」と姑息な笑顔を浮かべた。


しばらくそんな調子で歩いていた与崎が、出し抜けに口を開いた。

「美弥、あのさ」

「何?」

「その……。手、出してくれねえか?」

「は、なんで?」

美弥の不審感に決定打が放たれた。

与崎は居心地悪そうに視線を美弥から逃し、「ダメなら指一本でもいいんだけど」と尻すぼみの声で言う。