涙、という単語に過敏なのは、やっぱり美弥が泣けないからなのだろう。
別に不都合はなかった。今までは。
でも海から引き上げられて目を覚ました、あのとき。
美弥の感情は滅多にないほど高ぶっていたのに、相変わらず涙腺は沈黙を守ったままだった。
それがとてつもなく悔しかった。
父を失った今、美弥は嬉し涙の一つもこぼせないのか。
心が満たされても枯渇しても関係なしに。
__でも逆に言えば、美弥の心の中で父の存在はとてつもなく大きかったのだ。
それはもう、何があっても泣けなくなるほど。
父が死ぬまでは、美弥も感情を表に出せた。
今よりも笑うことは少なかったが、それは別に悪いことではない。
今、心にもない笑顔を浮かべすぎているだけだから。
それよりも怒ったり泣いたり、そういった感情を率直に表せていたことの方が今では貴重だ。
最後に泣いたのは、父が死んだときだった。
それ以降は一向に泣いていない。
自分が殺されかけたときも絶望感より怒りの方が強かったし、与崎に助けられたときも安堵の涙は出なかった。
父と自分、本当はどっちの方が大切なんだろう?
誰にも言えない言葉が、美弥の胸の中で渦巻いていた。

