これが、悪魔か。
床に転がって呻いている姿は不恰好で、想像していたようなキザっぽさはあまりない。
『悪魔』という神秘的なイメージからもかけ離れている気がするが、黒いスーツに黒いベールと父の手帳に書いてあった通りの服装をしている。
余裕が出てきた美弥は、しげしげと悪魔を観察した。
顔を隠しているベールは、紐を通して頭に固定しているようだった。
顔立ちはベールのせいで全く分からないが、少し長めの黒髪には茄子のような紫がかった艶がある。
身長は高い方で、多分175はあるだろう。
手足は長くスタイルもいい。が、ちょっと痩せすぎな気もする。
美弥は、悪魔が革靴を履いていることに気が付いた。
だから破片だらけの床を踏んでも無事だったらしい。
「おい、何見てんだ、起こせよ」
悪魔は倒れたまま美弥に右手を伸ばす。
ドレスグローブから僅かに覗く手首は、日本人にしては色白で青みがかっていた。
美弥は手を取ることはせず、悪魔の足元を凝視して呟いた。
「あの、家の中なんで靴脱いでもらえます?」
悪魔は憎々しげに溜め息を吐いた。
「まず謝れ」

