一拍遅れて、今度は美弥が小さく悲鳴を上げた。
「ちょっ、やめてっ」
美弥は、鉄筋のような腕から逃げ出そうと無言で暴れた。
男は「分かったから、暴れんなっ」と苛立ったように美弥の腕を締め上げる。
「痛い、痛いってば。離して」
気が動転しているのに、なぜか口調は平坦だった。
感情が脳に追い付いていないのかもしれない。
「大丈夫だから、落ち着け! 落ち着けって言ってんだろ!」
悪魔の声も届かず美弥はさらに暴れまくり、勢い余って男の側頭部に目覚まし時計を叩きつけた。
「うわっ」という声とともに、体が宙に浮く感覚がした。
男が足を滑らせ、美弥を抱えたまま後ろに倒れ込む。
美弥の背中及び腰に衝撃が走ったが、剥き出しの床に倒れた男はそれ以上のダメージを受けたようだ。
男は声にならない悲鳴を上げて美弥から腕を離した。
美弥はようやく我に返った。
自分が男の上に馬乗りになっていることに気付き、慌てて起き上がる。
そこで初めて、下敷きになっていた男と向き合った。

