落ちこぼれ悪魔の扱い方

美弥は冷水をかけられたように硬直したまま動けない。

怯えて歯の根をがちがちと鳴らしながら、美弥はただ鏡を凝視していた。


違う、これは親父じゃない。騙されちゃいけない。


美弥は自分に言い聞かせようとする。

そんな美弥を面白がるかのように、鏡の向こうからククッという低い笑い声がした。


「美弥。……会いたかった」


低い声の中に、感極まったような色がにじむ。

本当に美弥のことを想っていてくれたかのように。

そのせいで余計に、目の前にいるのが本物の父だと錯覚してしまう。


「わ、私もだよ」

美弥は警戒を解かずに答えた。

すくんだ足が、動くようになるまでの辛抱だ。

それまで上手くやり過ごせばいい。


「お父さんがいなくなって、悲しかったか?」

返答に一度詰まった。


いくら偽物だとはいえ、さすがに忘れていたなんて言えない。


「それは、もちろんそうだけど」

しどろもどろになりながらも何とか答えると、父の声はしばらく途切れた。

嘘がバレたのだろうかと、美弥は不安になる。


たっぷり時間を置いた後、静に父は言った。

「独りにしてごめんな」