帰路についてから、美弥の風邪は矢のような速さで悪化していった。
何せ家が遠いのだ。
必死の思いで山道を抜けてからかれこれ三十分は歩いているが、多分まだ着かない。
鏡が見つからないので与崎の能力も使えない。
軽口を叩く気力はあっという間になくなった。
手を繋ぐだけでは足りず、与崎に肩を支えてもらわなければ歩くこともできない。
「……しんどい」
与崎は美弥のうわ言を聞き、不安そうに眉根を寄せる。
「俺が背負って歩こうか?」
「いい」
「そうか。あんま無理すんなよ」
そう言いつつも与崎が一瞬安堵したのを、美弥は見逃さなかった。
「もうすぐ家だからな、頑張れ」
与崎の励ましに美弥はコクコクと頷き、鉛のような足を引きずる。
与崎も美弥の亀のような歩調に合わせ、転ばないように気遣ってくれる。
二人三脚みたい、という呟きは声にならなかった。