悪魔の降臨だ。
美弥が鏡に近寄ると、突然カーテンの裂け目から腕が突き出て来た。
美弥は喉を突いて出そうになった悲鳴を何とか呑み込み、緊迫した面持ちで時計を構える。
スーツの袖に包まれたその腕は、カーテンを避けて美弥の左手を掴む。
人肌の生温かさを感じ、美弥の背筋に寒気が走った。
美弥は目覚まし時計を握り直した。
変なことをしたら、すぐにこいつで迎撃してやる。
しかし予想とは違い、手はすぐに離れたまま何もしてこない。
美弥の緊張が解けかけたそのとき、肩を掴まれ、美弥の体は鏡に引き寄せられた。
「お前が、今回のパートナーか」
芝居がかった声で耳元に囁かれ、美弥は眉をひそめる。
声からすると、男性のようだ。
気味が悪いほど滑らかなバリトンボイスが、美弥の鼓膜を不快にくすぐる。
「まあ、お手柔らかに頼むよ。お嬢ちゃん」
……何こいつ、気持ち悪い。
美弥は無表情で目覚まし時計を振り下ろした。

