なんでここに? とか、どうやって来たの? とか、言うべきことはたくさんある。
しかし美弥の口を突いたのは、ほんの弱々しい呟きだけだった。
「……与崎」
美弥と契約した悪魔。
喧嘩別れになった後も、会いたいと思ってしまった悪魔。
そんな彼が、必死の形相で駆けてくる。
革靴を履いていて、ベールで視界も悪いはずなのに。
風が何度も吹き、その度にベールの端がめくれる。
与崎はそんなこともお構いなしに、ひたすら美弥だけを目指して走ってきてくれた。
「美弥、大丈夫か!?」
与崎は走りながら、美弥へと手を伸ばす。
一刻も早く、美弥を助け出そうとしてくれている。
美弥も何とか左腕に力を込め、一秒でも早く与崎の手を取ろうと前に出した。
距離が縮まってきた。もう少し。
もう少しで、手が届く。
美弥が期待に目を輝かせたその時、急な突風が美弥たちを襲った。
美弥の体は大きく揺すられ、右腕が悲鳴を上げる。
同時に与崎のベールが剥ぎ取られ、遥か遠くへと吹き飛ばされた。
与崎の素顔が露になる。朝日が逆光となって分かりづらいが、切れ長の目元だけは辛うじて見えた。

