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海辺に広がる静寂。
それを破ったのは、若い女の舌打ちだった。
「ったく。しぶとい子ね」
女の視線は、ガードレールの支柱を掴んで崖に腹ばいになっている、美弥へと注がれていた。
転落しそうになった美弥は、死に物狂いでガードレールの支柱に掴まり、九死に一生を得たのだ。
とはいえ足場はなく、頼みの綱は両腕だけだ。
「言ったじゃないですか。『死にたくない』って」
美弥は必死に支柱にしがみつきながら、先ほどとはうって変わって不敵な笑顔を浮かべる。
安藤と大柄な男は虚を突かれて黙っていたが、その間抜け面は次第に怒りで染まっていった。
「いさぎよく死ね!」
安藤は怒鳴り、美弥の手に蹴りを入れる。
一拍遅れて、大柄な男も美弥の腕を蹴りつけた。
あまりの激痛に、美弥は危うく手を離しかける。
若い女は罵声を吐きながら、ちょうど足元の位置に会った美弥の頭を踏みつけた。
「うぐっ」と呻きつつも、絶対に手は緩めなかった。
我ながら、さっきまで助けてだの死にたくないだのと女々しいことを呟いていた人間とは思えない。
とにかく今は時間を稼ごう。そうすれば、案外何とかなるかもしれない。

