美弥は緊張感に満ちた表情で鏡を見つめた。
カッターを握る手に、自然と力が籠る。
しかし、しばらく待っても何も起きなかった。
美弥は一度目を閉じてみた。
ほんの少しの期待を込めて目を開けたが、状況は全く変わっていない。
相変わらず二つに裂けた黒いカーテンの先端が、太いリボンのように空中を泳いでいる。
ただ、それだけだった。
「……はは、やっぱりそうだよね」
美弥の口から乾いた笑いが洩れた。
誰もいない寝室に美弥の自嘲的な笑い声が響く。
「こんなのに騙されるなんて、本当親父そっくり。血は争えないって、こういうことか」
美弥は憮然として項垂れる。
手からカッターナイフが滑り落ち、硬い音を立ててフローリングの床に落下した。
しばらくそのまま下を向いていたが、美弥は「ま、でも……」と顔を上げる。
「いいか。本当に出て来られたら困るし」
少し残念な気色を残しながらも、美弥は安堵の表情を浮かべた。

