父が近づいてくる。笑顔で。
普段は眉間に皺を寄せたしかめっ面ばかりだったのに。
似合わない笑顔は不気味で、張り付けたみたいで、美弥に似ていた。
父の顔が変化している。
頭全体が歪に膨らみ、色が抜けていく。
美弥は目が離せなかった。
水死体……。
「ああ、ああああああ」
気が付くと頭を抱え、道の真ん中でうずくまっていた。
これ以上父の顔は見ていられない。
「ごめん、ごめんなさい、親父」
全身から冷や汗が噴き出す。
目以外の全てがびしょ濡れだ。
「クソ親父とか言ってごめん。本当、悪かったから」
足音が近づいてきている。
恐怖で目の前がチカチカしてくる。
「もう、私に近寄らないで!」
美弥は肺を絞り上げるように叫んだ。
「……。あの、大丈夫ですか?」
頭上から降ってきた声に、美弥は荒い息を吐きながら顔を上げる。
心配そうに美弥を見下ろしているのは、スーツを着た二十代くらいの男性だった。
背は低かったが、父ではなかった。
改めて見ると、パーマをかけた茶髪に、よく日に焼けた浅黒い肌をしている。
似ても似つかない出で立ち。
これを父と見間違えるなんて、どうかしている。
やっぱり美弥の幻覚だったようだ。

