落ちこぼれ悪魔の扱い方


五月の夜にしては珍しく、外はかなり風が強い。

街路樹は一様にしなり、道に落ちている葉や小枝は宙に巻き上げられる。

美弥は目を細め、早足になりながら強風の中を歩いた。


スーパーの近くまで来た時、向かい側からスーツ姿の男性が歩いてきた。

日曜の夕方なのに珍しいな、と思い、美弥は何となく男性に目を向ける。

年の頃は四十後半といったところか。小柄で、身長は165センチもないかもしれない。


そういえば、父も背が低かった。

低身長は美弥にもしっかり遺伝していて、美弥の身長は150センチちょっと。はた迷惑な遺伝子である。


そんなことを考えていると、ふと男性と目が合った。

視線が交錯した瞬間、美弥の全身に粟立つような悪寒が走る。

「親父……?」


渇いた声が漏れる。

距離が縮まり、男性の顔がはっきり見えてきた。

色白な肌、美弥にそっくりで女性的な顔つき。


向かってきているのは、紛れもなく父だった。

「え、嘘、やだ、なんで」

切れ切れに呟いた声は震えていた。


声だけじゃない。水風呂に叩き込まれたように、全身が震えている。

指先が強張り、持っていた鞄をその場に取り落とした。