落ちこぼれ悪魔の扱い方

「えっ?」

美弥は驚いてカッターを抜いた。

布が裂けたという感触が全くしなかったからだ。

まるでカーテンが、寒天か何かに変質してしまったかのように。


美弥はカーテンを改めてよく見たが、カーテンには確かに裂けた跡がある。


……こんな非現実的なことが、起きるなんて。

「これって、もしかして遊び半分でやっちゃいけない感じ……?」

美弥はカッターと鏡を交互に見ながら困惑した。


現実を超越したことが起きるのは確かだ。

自分が今まで馬鹿にしてきたオカルトを、自ら体験してしまうことになる。


美弥はなんとなく、悪魔を呼び出してしまったら元の日常には戻れなくなる気がした。

……それは、もちろん怖い。


でもそれと同時に、『真珠の環』の恐怖から解放されるのは美弥の宿願でもあった。

この機会を逃してしまったら、多分一生、口封じに怯え続けることになる。


美弥が思案したそのとき、窓の外から能天気な音楽が流れてきた。

町内放送。六時のチャイムだ。


もう時間がない。


美弥は迷いを断ち切り、カッターをカーテンに刺し入れた。


布地を一気に引き裂くと、ゼリーにフォークを入れたような感触がした。