美弥は昇降口で靴を履き替え、咲子から鞄を受け取る。
足元は若干ふらつくが、家まで帰れないことはないだろう。
「一限休んで来てもらっちゃって悪かったね」
美弥が謝ると、咲子は「いいの、そのくらい」と前置きした後、おずおずと切り出す。
「あの、踏み込んだこと訊くようで申し訳ないんだけど……。親戚の人と、うまくいかなかったの?」
「そんなことは」
ない、と言い切ろうとして、美弥は口をつぐむ。
咲子は怪訝な顔で美弥を見た。
「分かってはもらえたよ」
美弥は言った。
「ちょっと嘘ついちゃったけど」
続けて言うと、安堵しかけていた咲子は「え?」と目を見張った。
さすがの咲子もどんな嘘かは訊いてこなかったが、気にはなっているらしい。
美弥に好奇の視線を送ってきている。
「嘘ついたおかげで分かってもらえたの。自分でも姑息だなって思うけど」
咲子は「姑息だなんて、そんな……」と声を上げたが、言葉が続かないようだった。
少し考えた後、咲子は口を開く。
「……まあ、嘘も方便って言うし」
咲子は苦し紛れにそう言った。

