その言葉が、トリガーだった。
腹の底から込み上げる悔しさに唇を噛む。
怒りに満ちたその目で、
視線を眠ったままの子どもに向けた。
やがてその目に溜まった涙は、
一粒の大きな雫となり、白い頬を伝った。
「…まだまだ生きられる」
すみれは静かに言葉を溢した。
「…助かるのに」
看護師やMEをはじめ、
その場にいたスタッフ全員が
すみれの言葉にやるせなさを痛感していた。
ただ一点を見つめ、
珍しく取り乱したすみれの言葉を
胸にとどめていた。
「これだけ資源もスタッフも揃っているのに、
助かる命を見捨てるなんて。
そんなの…
そんなの、医者じゃない」
梶木は、先程とは別人のように
娘を見るような眼差しをすみれに向けた。
すみれの悔しさを、
誰よりもわかっているとでも言うように。
「君は十分やっている。
これからも沢山の子どもを救っていける」
「…」
すみれは再び梶木を睨んだ。
だが、もうこれ以上の言葉は出てこなかった。
何を言っても、無駄だとわかっていた。



