梶木はすみれが睨み上げる視線から
一切目を背けることなく言った。
「麻酔科の先生、自発呼吸は?」
当直の松島がハッとして答える。
「かろうじては、ありますが」
「では抜管してください」
「…え?」
「その後すぐにハートセンターに降ろします」
「だめよ!」
すみれの叫び声がそれを遮る。
「抜管しないで」
諭すように松島を見ると、
松島は戸惑いつつ言った。
「…上の指導医がいなければ、
僕一人で抜管はできないことになっています」
「では上の医師を呼んでください」
梶木が冷静に答える。
すみれはふとある名前が頭に浮かんだ。
「藤原先生…」
「え?」
松島にも届くように、
咄嗟に出てきた名をもう一度呼んだ。
「藤原先生!
…を呼んでください」
彼ならきっと、一緒にこの子を助けてくれる。
まだよく知りもしない男だが、
すみれは何故だかそう直観した。



