最後にルーペを取り終えて、
出て行こうとするところを
梶木が前に立ちふさがった。
「どこに行く気だ」
「私が話す」
目線を反らしたままそう言うすみれに
梶木も頑なだった。
「だめだ」
「なぜ?」
「今の君がご両親と話せば、
手術することを説得するだろう。
治療の無理強い、
それは誘導になってしまう」
「それでこの子が助かるならそうすべき…」
「医師は常に中立な立場でなければいけない」
「そんな倫理の授業みたいなこと聞いてない!」
すみれは勢いよく梶木を睨みあげた。
いつもは静かで澄んだ声が、
一段と皆のもとに鋭く届く。
今こうしている間にも、
心美の身体は限界を迎えようとしている。
こんなことしてる暇、ないのに…
すみれの訴えがぶつかっても、
足元のセンサーで開くドアの前から、
梶木は動こうとしなかった。



