戻ってくると、
増山をはじめとしたMEが
人工心肺の用意を進めていた。
帽子とマスクをつけて
ガウンと手袋を装着したところで、
すみれは挿管され眠っている
心美の上に覆布をかけた。
時計を見ると、深夜2時を過ぎていた。
教授はまだ来ないが、
心美の容態から一刻の猶予もない。
すみれは前立ちの後輩を見てから、
「タイムアウト」
と宣言した。
スタッフ全員の手が止まる。
「自己紹介は省きます。
田中心美ちゃん、1歳半、女児。
ファロー四徴症の肺動脈狭窄に対し、
圧迫解除及び拡張を行います。
手術予定時間4~5時間。
ポンプ回しますが出血多め」
以上です、お願いします。
と、メスを受け取ったところで、
オペ室のドアが開いた。
「オペは中止」
ICを終えた梶木の声が、
冷たく手術室に響いた。



