パーフェクト・フィグ




震えていたのは、
すみれのピッチのスマホだった。

すみれが電話に出ると、
看護師か誰か、女性の厳しい声が
雅俊にまで聞こえてきた。

すみれは「すぐ行くから上げといて」
とだけ呟いて
電話を切って立ち上がった。


「またオペか?」


雅俊が言うと、すみれは頷いた。


「ハードだな。
 …大丈夫なのか」

「慣れてる」


先程までの眠そうな顔とは打って変わって
すみれは医師の顔に戻っていた。

小走りに玄関へ行き、
靴を履いて振り返った。


「ありがとう。元気出た」

「…あぁ」

「また来る」

「は?」


食堂じゃないんだ、という言葉は
喉の奥底で留まった。

まだまだ働き続ける。

この小さな身体からは
想像できないほどに
すみれはエネルギッシュだ。

いや、働かざるを得ないだけかもしれない。

だが、ここまでやり切ることが
いかに大変で凄まじいことか、
同じ医師の雅俊にはわかる。

雅俊は心から尊敬する思いで、
すみれの目を見て言った。


「…もう来るな」


「ふふふ」


すみれは再び笑って、
そしてすぐに背を向けた。

すみれが出て行ってから、
ドアがゆっくりと閉まった。


オペということは…


雅俊は自分のスマホを開いて
麻酔科医のグループメッセージを確認した。