パーフェクト・フィグ




雅俊にとっては、昔から食べてきた
いたって普通の、ただのカレーライス。

だったのだが…


「お、お…」


すみれは一口食べたところで
大袈裟すぎるほどに声を震わせた。


「お、美味しすぎるー!」


色素の薄い目が飛び出るほどに見開いて、
雅俊の目を真っすぐに見た。


「人の作ったご飯って美味しい。
 いつぶりだろう、
 人の作ったご飯食べたの」

「"人の作ったご飯"だから美味いんだろうな」


嫌味のつもりで返したのだが、


「うん!」


と笑顔で返された。


「…」


笑うこともあるのかと、
何故だか新たな発見をした気分だった。

そりゃあ人間だから当然だろう。

勝手に、すみれは感情をはっきりと
表に出さないタイプかと思っていた。

自分と同じ、
表情が感情表現のすべてではないのだと。

だが、どうやら違ったらしい。

手術室で見せている
"天才小児心臓外科医"は、
どこにでもいる、まるで少女のようだった。

だがふと、松島との会話を思い出す。


「…お前、31なのか?」


すみれはスプーンを救う手を
止めることなく言った。


「うん」


なにか?
と言いたげに見てくる、
その口周りを見事に茶色くした女。

雅俊はとても自分の知る31とは
かけ離れていると思った。