スッと吸う音が聞こえた。
「いい、何でもない。邪魔してごめん」
そう言って再び階段を降りようとする、
その細い腕を、思わず掴む。
「待て」
顔は見えなかった。
毛量の多い赤毛が、壁になっていた。
見たくない、見せたくないものから
すみれを守っているように。
「…」
雅俊は、迷いに迷った挙句、
頭に浮かんだ言葉がこぼれた。
「…心配なんだ」
「…ッ!」
「お前が、心配なんだ、俺は」
すみれがどんな表情なのかは、わからなかった。
ただ、小刻みに震え出した肩と、
何かが弾けたように、
悔しさと苦しさに満ちたすみれの
息をする僅かな音だけだった。
「…夢乃が…っ」
すみれは両手で顔を覆った。
「ゆめのがぁ…ッ…」
雅俊は、今にも崩れ落ちそうな、
消えてしまいそうなその背中を
後ろから抱きしめた。
気がつけば、思い切り、抱きしめていた。



