「…それで、松島先生と東郷先生もお呼びしたので、
良かったら藤原先生も来ていただけないかなって!
私の同期がICUにいるんですけど、
もう結構な先生のファンなんですよ!」
しかも…と続く言葉を、手で制する。
視線の先にある背中が、
突き当りを曲がっていく。
「すまない。その話はあとで」
「え、あとって。
でも先生、患者さんのことも…」
「すぐ戻る」
「あっ…え?」
雅俊は消えた背中を追いかけて
小走りで廊下を進んだ。
小さな白衣の上に、
厚手のパーカーのフードが見える。
まるで猫の毛のような髪が、
階段に続くドアの向こうに消えた。
雅俊は小走りにそのドアに近づき、
廊下より一段と薄暗い階段の踊り場で、
その小柄な後ろ姿を呼び止めた。
「待て」
響いていた足音が止む。
いつもと変わらないはずでも、
雅俊にはわかった。
何かが、あったのだと。
一人で行かせられない、
理由があるはずだと。
「どうした」
すみれは振り返らなかった。
ただ、薄暗く天井の低いこの場所で、
一段と小さく、弱く見えた。



