「ねねっ、この前蒼真先輩とやったときのこと、教えてよ」

「は? ヤダよ」

 キラキラした瞳で見上げてくる莉乃に、思わず苦い顔をする。

「えー、もったいぶらないでよぉ。あたし、見に行けなかったんだから」

「負けたケンカの話、誰がしたいんだよ」

「だって、悠ががんばってたって聞いたら、聞きたくなるじゃん。あたしがホメてあげるよ、悠のこと」

「なんだよ、それ」

「負けたって、がんばったことには変わりないじゃん」


「ふふっ」


 うしろで小さな笑い声がして、莉乃と同時に振り返ると、御門が立っていた。


「ご、ごめんなさい。お二人、仲がいいんだなと思って」

 御門が申し訳なさそうな顔で、ぺこぺこと頭を下げる。


「別に——」「でしょ。こーんな小さいときから知ってるから、もう家族みたいなもん?」

 俺の言葉に被せるようにして莉乃がそんなことを言った。


「さすがにそんなに小さくはなかった。話を盛るな」

「えーっ、こんなもんだったってー」


 家族……か。


 ひょっとしたら俺は、莉乃にとっての一番とか二番とか、そういう概念からも外れているのかもしれないな。

 この場合、いいのか悪いのかわからんが。


 でもまあ、莉乃が俺との距離をこれ以上詰めてこないのなら、俺が近づけばいいだけの話だ。


 そんな勇気をくれた御門兄妹には、まあ、感謝してるよ。