「莉乃」

 帰り支度を終え、教室を出ていこうとする莉乃を、俺はとっさに呼び止めた。

「なあに?」

 莉乃が扉のところで立ち止まって、俺の方を振り返る。


「その……たまには一緒に帰らないか」

「えーっ、なに急に。ずっとあたしのこと、避けてたクセにぃ」

 莉乃が、ぷくっと頬を膨らます。


 あれは……怒った顔でもしてるつもりなんだろうか。


「避けてたのはおまえだろ。俺の隣がコンプレックスとか言いやがって」

「はあ⁉ ……ちょっと、ひょっとしてあんときの会話、あんた聞いてたわけ?」

「じゃなきゃ、こんなとこ来るかよ」

 さすがに気恥ずかしさが勝って、ふいっと視線を逸らす。


「……なあ莉乃。まだ御門さん狙ってんの?」

「あー……それねえ。あれは観賞用だったわ」

「なんだよそれ」


 それじゃあ、俺と同列じゃねえか。

 ……ま、それならいいか。


「帰りにモックでも寄ってくか?」

 カバンを片方の肩に引っ掛けると、莉乃のところまで歩いていく。


「いいね! あたし、モックの新作シェイク飲みたかったんだ」

 そう言いながら、莉乃が俺の隣にぴょこんと並ぶ。


 その場所がコンプレックスなんじゃなかったのかよ。

 ま、いいけど。