「いえ! 慰めるとか、そんな大それたことをするつもりはありません。わたしには、そんなことをする力もないですし。ただ、わたしの気持ちを知ってほしかっただけと言いますか……」


 そのとき、金沢さんが「ふはっ!」とはじめて楽しそうな笑い声を立てた。


「ほんと変わってるよな。あんたも、あんたの兄貴も」

「わたし……そんなに変わってますか?」

 心配になって金沢さんに尋ねると、「変わってる、変わってる。間違いない」と太鼓判を押されてしまった。


「まあ……あんたの気持ちだけは、ありがたくもらっとくわ」


 入学以来ずっと思い詰めたような険しい表情をしているように見えていた金沢さんの顔に、はじめて柔らかい笑みが浮かぶのを見て、思わずドキリとする。


「えっと、お兄様に男性と二人きりでいるところを見られると大変マズいことになりますので。わ、わたしはこれで失礼します!」

 ぺこりと頭を下げると、わたしは扉を開けて校舎の中へと慌てて戻った。


 閉じた扉を背に、はぁー、と深く息を吐く。


 全然うまく話せなかった……。

 こういうとき、お兄様ならきっともっとうまく話せるに違いないのに。


 でも、トップじゃなくたって、カッコいいものはカッコいいんだよ! って。

 少しでもわたしの気持ちが伝わっているといいのだけど。