突然怒鳴り声を上げたお兄様の瞳には、冷たい光が宿っている。


 お兄様に喜んでもらいたかっただけなのに……。


 わたしの目にみるみる膨らんでいく涙の粒を見て、お兄様がハッとした顔をする。


「ごめんね、彩智。せっかく僕のために持ってきてくれたのに」

 お兄様は包みを拾うと、ぱぱっと周囲についた汚れを払う。

「それじゃあ、一緒に食べようか」

 そう言ったときのお兄様の目は、いつもと同じように優しく細められていた。

「はいっ!」


 包みを丁寧に開けると、お兄様は砕けてしまったクッキーを口の中にどんどん放り込んでいった。


 ふふっ。わたし、知ってるんだから。

 お兄様が、なによりもそのクッキーが大好物だってこと。

 だって、もう一年も一緒に暮らしているんだもの。


 このクッキーは、わたしにとっても大切な思い出の品。

 去年亡くなったお母様と一緒に、前に一度だけ作ったことがあるの。

「大切な人にプレゼントしたいから」と、そのときお母様は言っていたっけ。

 だからね、わたしもそのとき、一生懸命心を込めてお手伝いしたの。