「お兄様」
翌朝、制服に着替えてから玄関に向かって歩いていると、濃紺のスリーピーススーツに身を包んだお兄様が部屋から出てきた。
着崩した学ラン姿のワイルドなお兄様もステキですけど、スッと背筋の伸びたお仕事モードのお兄様もやっぱりステキで、思わず目が吸い寄せられてしまう。
「今日は、朝からお仕事ですか?」
「ああ。今日は、本社の定例会議に出席しなくちゃいけなくてね」
「そうなのですね。……いってらっしゃいませ。お気をつけて」
一緒に登校できないことへの寂しさを悟られないように、必死に明るく言う。
「——彩智」
「なんですか?」
「……いや、なんでもないよ」
スッと目を伏せると、お兄様はわたしに背を向け、玄関へと歩いていった。
なんだか今日もまだお兄様の様子がいつもと違う気がする。
蒼真さんのこと、まだ怒っているのかしら。
あれは、お兄様の誤解なのに。
けど、わたしがそう言ったところで、きっとなにも変わらない。
だって、二人きりで屋上にいたことには違いないのだから。
だったら、いったいどうすればいいの?
「そうだ、彩智」
お兄様の背をじっと見つめたまま思案していると、少し歩いたところでお兄様がもう一度足を止め、わたしの方を振り向いた。
「蒼真と、一度デートでもしてみないか?」
「……⁉ で、デートですか⁉」



