「なあ蒼真。おまえさあ、なんでこんなクズ校に来たわけ? 頭いーのに。俺の次くらいには」

「ソックリそのまま返してやるよ、御曹司」

「ははっ。さすがうちの顧問弁護士の息子。そんなセリフ、おまえにしか言えないよな」


 こんな会話を笑いながらできるのは、こいつくらいだ。

 なんていうか、気持ちが楽になるんだよな、蒼真といるときだけは。


「ま、どうせ『親の敷いたレールの上を走るのがイヤだった』とか、そんなとこなんだろ?」

「……わかってるなら聞くな」

 蒼真が小さくため息を吐く。


「なんだ、今日はやけに素直だな」

「……負けたからな。おまえに。今日くらいは、素直になってやる」

「でも、強かったぞ。俺の次くらいには」


 俺がそう言うと、蒼真はふっと口元に笑みを浮かべた。


「つくづくムカつくヤツだな」

「そろそろ立てそうか?」

 大の字に地面に寝そべったままの蒼真に手を差し出すと、パシッと右手で打ち払われた。


「ヤロウの手を握る趣味はない」

「あっそ」

「だが……手伝ってやってもいい。どうせおまえは、親の敷いたレールの上をまだ走っているんだろ?」

「……わかってるなら聞くな」


 ほんと、いいヤツだよ。

 冷たい物言いをする割に、困ってるヤツは放っておけない。

 若干お節介すぎるところもあるけどな。

 そこは、彩智と似ているのかもしれない。


『似たもの夫婦』ってヤツか。

 いや、まだ断じて夫婦じゃないけどな⁉


 ……そんな、俺のことを信じきっている二人を、これ以上ダマし続けるのは正直心が痛いが。


 ま、せいぜい演じきってやるさ。

 真の目的を達成するまでは。

 この『御門ホールディングス跡取りの御門陽介』とやらを、な。